元夫は、とても頭が良い。
何かを聞けば、必ず納得する答えが返ってくる。
また、手先もフランス人とは思えない程器用で、家具を作ったり、
壊れたジッパーを直すなんてこともしてくれた。
社会を良くすることを真剣に考える。ユーモアもある。
パーフェクトな人だなって思っている。
パーフェクトな人間は浮気しないんじゃね?
だよね。
でも、私は彼を崇めていて、彼の決断に絶対的な信頼をおいて生きてきた。
彼の行動に間違いはなく、常に「善」なのだ。
長い結婚生活の中で私はそういうマインドになっていた。
彼がそう仕向けたのではないだろうが、あまりに彼がすごいのでそう思わざるを得ない。
これを読んだ人は、「かもめ、マインドコントロールとけてないよ」
と思うかもしれない。
けど、実際そう。彼に任せておけば正しい道に導かれる。社会的にも、個人的にも。
であるからして、私は彼が決断した「離婚」をあっさり受け入れるしかなかった。
何の抵抗もせず。
なぜなら、彼が決めたことに今まで一切の間違いがなかったから。
後で彼が他の女と一緒になったことを聞くが、彼が選んだ人だからきっと素晴らしい人なんだろう
と思っている。
だったら、かもめも彼に選ばれたんだよ。と。
違う、彼が私と結婚したのは、彼にとって私が初めての恋人で、恋とは愛とはを知る前のこと
だったからだ。彼はとても若かったし、恋愛に関しては超初心者だった。
彼も心が成長して本当の大人になるにつれて、目が覚めたんだ。
私がどれほどつまらなく教養が無い人間なのかということを。
私は、彼が自分を認めてくれていなことをずっと感じていた。
ただ、漫然と日々暮らしている私を見限って、あまり話もしてくれなくなっていた。
社会問題に興味をもたない、自分の人生をどうしたいか考えない、芸術や文化にも興味をもたない、
ただただ仕事が終わればTVを見て、興味があることと言ったらショッピングくらい。
生きる屍に見えていたと思う。
彼が見限ってしまった「私」を、私自身も見限っていた。
私は何の価値もない人間。
心の底ではそう思っている。
彼が、そう思っているんだから、間違いない。